第545回 「ソナタに恋して」にいたるまで 其の四

フライヤー(チラシ)についても、方向性が少しずつまとまっていきました。

今回はいつもと雰囲気を変え、バレンタインらしく、そしてソナタというややもすると堅苦しいイメージに受け取られがちなジャンルをなるべく親しみやすくアピールしたい、という思いから、写真主体ではなく、イラストの入った温かみのあるものにしたいなと思っていました。

以前から気になっている方がいました。カフェふくろうのロゴやプロダクツデザインを手がけたり、絵本を出していらっしゃったりする地元八千代在住のイラストレーター、obaさんです。obaさんのイラストはほのぼのとして可愛らしく、しかもひと目で「あ、これはobaさんのだ!」とわかる印象的なタッチで、とても好きなのです。obaさんに関わっていただけたら嬉しいのだけど…。

それに、今回のリサイタルにあたっては、地元の友人、知人のお力を借りて作りこんでいきたい、という思いもありました。人と人とがつながっていることや、作者の気持ちが時空さえ越えて人に伝わり響くことを、自分なりに表現したいと思ったのです。今回のリサイタルは「贈り物」(献呈)がテーマですが、「人と人との絆」も、もう一つの隠れたテーマでした。

果たしてobaさんにイラストをお願いしたところ、彼女はとても快く引き受けてくださいました。最初の打ち合わせで詳しくリサイタルの主旨や私の考えをお話させてもらった数日後、3人の作曲家と私の、楽しくて愛らしいキャラクターのイラストを見せてくださいました。タイトルのフォント(字体)も、既成のものではなくオリジナルを作ってくださいました。

フライヤーは大切なものだと認識しています。当日いらしてくださる方だけでなく、フライヤーをご覧になったすべての皆さんに、自分がどんな思いで演奏に取り組んでいるかや、どんなリサイタルにしようとしているのかを、お伝えできるようなものにしたい…つまりは自分の表現がそこからすでに始まっているような気がするからです。

さらに全体のデザインを、もう大分前からお付き合いをさせて頂いている空間デザイナーのKさんに相談したところ、とてもお忙しい方なのに「ぜひ、お手伝いさせてください!」と、快諾してくださいました。Kさんは海外でも活躍され認められている、空間デザインの第一人者。テクスチュア、レイアウトや背景・色・バランス・ストーリー…彼のデザインは、単にクライアントの意向を反映するに留まらず、コンセプトやメッセージを極限まで広げて形にして見せてくれるワクワクするような楽しさがあって、作品を見るたび素敵な刺激を頂くのです。それはお話ししていても同じで、「ミーティング」と称してお会いするたび、時間が経つのを忘れてアートとカルチャーについての話やデザイン談義に夢中になってしまいます。

当日演奏する曲目の音源をお渡ししたところ、彼らの作品に込められたさまざまな思いの中に、Kさんは「緊張感」を感じたといいます。「誰かに何かを贈るとき、それが大切な人であればあるほど、期待感と同じくらいに相手に自分の思いがきちんと届くのか、拒否をされたりはしないだろうか、という不安な部分ってあると思うんです。僕は彼らの作品に、自分が思いをこめて作り上げたという達成感と、それが伝わるかどうかという緊張感の両方を感じたんですよね」このKさんの洞察はそのまま、私も譜面と向き合って感じていたことでした。「それをフライヤーに写しこんでいけたら、面白いんじゃないか…いいものになるんじゃないかと思うんです」

Kさんは、レイアウトや色をあれこれと変えた何パターンものデザイン案を提案し、実際に見せてくださって、その度に私の感想や意向を確認し、「気づいたこととか、良い・悪い、好き・嫌い…もう、どんどん言ってください。美奈さんが言ってくれればくれるだけやりがいがあるし、すごく自分も勉強になるので…」すごい方って、とことん謙虚なのだわ、と、つくづく感じて、こちらの方こそ貴重な勉強になります。

「フライヤー製作に携わせていただいて感謝の気持ちでいっぱいです!空間のデザインと違ってA4サイズの中に思いを詰め込まなければいけないという難しさも改めて痛感しましたし、その難しさこそまだまだ自分の中の追求できる『可能性』なのだと思いました。」すべての作業を終えたあとに、Kさんは丁寧なお礼のメールまで下さいました。Kさんには、いつも前向きな姿勢でいること、与えられた状況をありがたく受け入れ、そこから最大のものを学び取ることを全力で楽しむこと、謙虚さと誇りを抱いて生きることの大切さなどを、いつも、いつのまにか、気づかせてもらっています。

かくして、obaさんの温かなイラストと、Kさんの手によるドラマティックでスタイリッシュなデザインと、私の思いがひとつになったフライヤーが完成しました。見てくださった方が「わぁ、かわいい!」「すてきですね」とおっしゃってくださるたび、心のなかでお二人に報告しては「ありがとう」とつぶやいています。

(「ソナタに恋して」にいたるまで 其の五 に続く)

2011年11月17日

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