第538回 山形県ジュニアピアノコンクールに参加された皆さんへ

恒例の福島県ジュニアピアノコンクールは、3月11日の未曾有の大震災の影響で今年度は中止となりました。これまで10年以上もの間、審査員として関わってきたコンクールです。

その間、当日の審査だけでなく、参加する生徒さんを指導される先生方を対象とした課題曲の講座、アナリーゼ(楽曲分析・解説)やコンサート、生徒さんの特別レッスンなど、さまざまな関連のお仕事を随分させていただきました。福島、会津若松、郡山、白河、いわき、そして相馬といった地区を、何度伺ったことでしょう。

そのつど、代理店の社長さんや先生方の熱心な姿勢、生徒さんのひたむきな演奏や素晴らしい才能に触れ、いつも元気をいただいて家路に着きました。福島県は海の幸、山の幸の豊かさや、同じ県内でも場所によって異なる文化や気質など、楽しみの尽きない素晴らしいところです。

そんな福島が一日も早く復興を遂げ、町に以前のように人の声と笑顔…それに音楽が溢れるようになることを、心から願ってやみません。

一方、山形でのコンクールは例年通り行なわれ、大変な盛況の中で先日、本選を終えることができて本当に嬉しく思いました。良い演奏がどんなに人を勇気づけるものか、感動がどんなに大きな心の栄養になるものか、改めて感じることができました。

今日は、本選の二日間で約180名の方の演奏を聴いて感じたことをお話したいと思います。とはいえ、全体の講評は当日審査員長の先生がなさいましたし、個人的に講評用紙にも書きましたから、ちょっと違うお話にしましょう。

コンクールは確かに、結果が「賞」という成績で出るものです。どう弾いたらよい成績に結びつくのか、気にならないという人は少ないかもしれません。でも、私は個人的には、皆さんにはあまりそれを気にしすぎないで、のびのびと音楽を…そしてステージ経験を、楽しんでいただきたいと思っています。

「楽しんで」なんて言われても、緊張はしますよね。でも、プレッシャーを感じてドキドキするのは、一生懸命な証拠。いい加減に取り組み、「本番なんて、どっちでもいいや」と思っていたら決して感じることがない、とても素晴らしいことなのです。緊張しているなぁ、と感じたら、どうぞ「それだけ、気合が入っているんだな。きっといい演奏が出来るぞ!」と、思って、自分を励ましてみてください(効き目がありますように!)

とはいえ、日頃からの練習の積み重ねなしには、よい演奏にはなりえません。そこで、どんなことに注意し、何を心がけたらよいのかを、少しお話してみましょう。

まず、楽譜は「台本」であるということ。そこには、作者(作曲家)のメッセージが込められています。メヌエット、ポロネーズ…といったタイトルにも、その作品の柱となる大切なリズムや音楽的な特徴が示されているのです。それがどんなものなのか、学んでみてください。その作品が書かれた時代背景や、作曲家の国籍などを調べてみるのも、曲に親しみを持つためにはオススメです。

さぁ、準備ができたら今度はいよいよ演奏です。でも、ちょっと待って!音符を弾き始める前に、あともうひと仕事。その曲は何分の何拍子で書かれていますか?そして、何拍目から音楽が始まっていますか?演奏には、テンポとともに拍子を感じることがとても重要なのです。強い拍、弱い拍…いろいろな拍の個性を感じて、その音楽がどんなふうに「弾いてもらいたがっているのか」を、見つけてください。どんなテンポがふさわしいかについても、同様に大切に思ってください。

それから、フォルテ、ピアノ…といった表情記号についても、少し考えを深めてみましょう。つまり、同じフォルテでもいろいろあるのですから、その場にはどんなフォルテがふさわしいのか。それから、右手、左手、あるいは内声、といった複数のパートが、それぞれどんなバランスで聞こえてくるのが望ましいのか、探してみてください。

…え?「どうやったらそれらが判断できるのですか?」ですって?それは、とにかく色々な弾き方を試してみることです。頭で考えるのではなく、実際に違った弾き方をして比べてみるのです。洋服を選ぶときもそうですが、実際に試着して比べてみると分かりやすいものでしょう?つまり、答えは「頭の中」から探すのではなく、自分の演奏を聴いて、「心の中」に見つけるのです。

ただし、そのためには自分の演奏をよく聴いていなくれはいけません。弾くことばかりに夢中になって、きちんと聴いていないと答えに至ることができませんから注意してくださいね。

「ちゃんと聞いててもわからないよ~」本当?あらあら、よく見なおしてみましょう。「聴く」と「聞く」は、全然違うんですよ。あなたは「聞く」の方になっていませんか?こちらは、「鳥の声が聞こえた。以上。」の「聞く」。「聴く」は、「おや?この鳥の声はさっきのとは違うぞ。音程が低いし、鳴き方のリズムが違う。さっきのは間違いなくヒヨドリだったけど、これはなんだろう?場所も違うところから聴こえているようだけど、風向きが変わっただけかな?」のように、全神経を集中させ、興味を持って(←これが重要!)「耳で観察する」こと。そういうレベルで自分の音や音楽を聴くことを心がけてみてください。必ず判断できるようになりますよ。

演奏はそうやって「台本」を読みこみ、セリフ(=音)をただ棒読みするのではなく、抑揚を工夫して、役を想像して、表現することです。それと同時に、その物語(=曲)から感じたことを文章ではなく音で綴る、読書感想文のような部分も、持ち合わせています。

読書感想文は、いくら立派な文章でも、それが書いた本人の言葉と感想によるものでなければ意味がありません。演奏も、先生に言われたことをそのまま弾くのではなく、先生のアドバイスを参考に、最終的には自分の「言葉」で伝えなくては説得力やリアリティーを持たないものです。ただミスなく弾くことよりも、自分の意見をきちんと音に反映させ、それを伝えることを目標に勉強していただきたいのです。たくさんの本を読んでいる人は、いろいろな感想をもつようになりますね。どうぞ、たくさんの音楽にふれて、いろいろな感想を育ててください。

そんなふうに、楽譜から考察したり、音を観察したり、表現を工夫するのを“楽しむ”ことができたら、緊張はすばらしい集中にかわり、周りの人をも楽しい気持ちにさせることができるでしょう。つまり「勉強(練習)する→だんだん理解が深まり楽しくなる→いい演奏になる→周りの人も楽しくなる→自分ももっと楽しくなる」…ね?なかなかいいものだと思いませんか?

ステージは、いろいろなことに気づき、さらなる成長のために大切なものが得られる貴重な場です。失敗だって、いつか必ずそれがプラスに転じるものです。恐がらず、どんどんチャレンジしてください。

音楽には「幸せパワー」があると思っています。実際、わたしも今回の皆さんの演奏からどんなにたくさんの幸せパワーをいただいたことでしょう!…音楽が人生の支えとなり、人と人を結びつけるステキなツールになって、ますます皆さんに幸せをもたらすことを心から願っています。

   来年も、きっとまた会いましょうね!

2011年09月24日

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