第504回 何が欲しい?

「サンタクロースに、何をプレゼントしてもらいたいですか?」

つい先日、友人と観に行ったお芝居のカーテンコール後の舞台挨拶で、主要な出演者たちによるちょっとしたトークのコーナーがありました。司会係の俳優さんの質問に、「僕、子供のころからサンタに来てもらったことないんですよ。…サンタクロースが欲しいっす!」「…お仕事ください!」「こういう時、空気を読める人になりたい」観客を笑わせるさまざまな名(迷)回答が返ってきました。

ふと、考えました。というより、司会者がその問いを投げかけた時から、考えていました。私だったら、何が欲しいかな、と。

二番目の俳優さんが「…お仕事下さい!」と答える前に、私も「とりあえず、お仕事…かなぁ」という考えが頭をよぎったのですが、今、自分ひとりがなんとか生きていけるだけのお仕事にありついているどころか、好きなことを仕事にしている、という幸せな状態にあるというのに、これ以上を求めるというのはどうも欲深いような気がして、ひそかに却下しました。

かつて、七夕さまの短冊に、「どんなにお酒を飲んでもへこたれない、強い肝臓の持ち主になれますように」なんて書いたことがありましたが、多少の睡眠不足にも肉体的疲労にもへこたれない、人並みレベルの健康も、持っています(2010年12月現在では、ですが)。これも、これ以上を求めてはバチが当たるというものです。

物欲がないわけではありませんが、自分の中ではそれよりも食欲の方がずっと大事。でも、どんなにお安い食材も、それなりに美味しくいただく工夫は、ある程度心得ているつもりです。よって、これもさしあたって今以上を求めるほど切羽詰ってはいない、ということになります。

じゃあ、恋人?…それです、それ!でも、実はたくさんいるんです。心の恋人が…。バッハやベートーヴェンだけではありません。可愛い生徒さんたちにも、心を許せる友人たちにも恵まれているのです。両親もお陰さまで、元気で仲良しだし。子供がいたらなぁ、ママになれたらなぁ、と、夢みたこともありますが、こればっかりは神様の思し召し。たとえサンタさんにでも、お願いするのははばかられます。

とすると、一応住むところがあって、仕事も健康も、食べるものも、大好きな人にも不自由していないというのに、他に何を望みましょう?…いえいえ、正直を言わせてもらえれば、いくらでもあるのです。決して本番でしくじらない演奏能力や精神力も欲しいし、多少のことにはびくともしない、強靭にして寛容な心も欲しい。

でも、よく「3億円ほしい、といっていた人が3億円を手に入れても、やがて6億円をもつ人を羨ましいと思い始める」と言われるように、もしもそれなりのスキルを手に入れても、もっともっと欲しい、と願うようになるでしょう。欲にはきりがないものです。健全な向上心は悪いものではありませんが、手に入らないからこそ努力する幸せを味わうことができる、という部分もあると思うのです。

とすると、なんだか、欲しいものを求めないことこそが一番幸せなような気がしてきました。サンタクロースは子供たちにしかプレゼントを持ってこないのは、きっとまだ彼らは、与えることよりも、求め、与えられることに幸福を感じるからです。それが、子供たちのいいところ。一方、“求める”ことよりも、求めている人に欲しいものや幸せを“与える”ことに幸福を感じるのが、大人、ということなのではないでしょうか。

「サンタクロースに、何をプレゼントしてもらいたいですか?」

求めない心、が欲しいです。余計なものを求めない人になることが、来年のひそかな目標です。

(*来週の『ピアニストのひとり言』はお休みいたします。次回の更新は1月7日深夜の予定です。今年もご愛読くださいまして、本当にありがとうございました!来年もどうぞよろしくお願いいたします。)

2010年12月24日

« 第503回 simpleなプレゼント | 目次 | 第505回 のんびりな抱負 »

Home