第492回 お花畑、復活!

仙台時代の思い出はまず、高校時代の思い出につながります。父の転勤にともなう転校が多かった私にとって、高校は初めての“入学と卒業を両方した学校”だったのです。

仙台市内は当時、学区制で受験校が指定されていて、私が住んでいた地区のもっとも“敷居の高い”進学校だったのが、母校の宮城県第二女子高等学校、略して“二女高”です。良くいえばレトロ、悪くいえば時代錯誤的に古風な制服、伸び伸びとした校風、優秀で美しいお姉さまたち(“二女高”は“美女高”ともいわれていた←?)、というのが、入学前の二女高のイメージでした。“お花畑”という異名も持つ、名門女子高でした。

ですから、合格が決まったときは確かに嬉しかったけど、反面授業についていけるのか、心配になったものです。なにしろ、ピアノの練習第一!の高校生活を送る気まんまん…つまり、勉強がおろそかになってしまうのは目に見えていたのです。

でも、先生方はとにかく生徒の考えや個性を尊重してくださいました。奨学金のための論文を応募したい、と現代国語の先生に相談すると、休み時間にとことん原稿の推敲にお付き合いくださったり、古文の先生にもご意見を聞かせていただけたり。3年生になって、入試に学力テストがほとんど必要ない私の成績ががたがたと落ちたときにも、担任の先生は「鈴木は(それで)いいんだいいんだ。ピアノはしっかり練習しておけよ」と、あっさり。

とはいえ、成績は悪いしピアノの練習のために部活動にもほとんと参加できなかったし、なるべく目立たないように過ごしていた私…。卒業する時、のちにその二女高で教育実習をさせていただき、非常勤講師として10年も関わることになろうとは、想像もしませんでした。それだけではありません。芸術鑑賞で仙台フィルハーモニー管弦楽団とチャイコフスキーのピアノ協奏曲を共演させていただいたり、学校創立100周年の時には記念のコンサートでピアノのソリストとして演奏させていただいたり。

そして先日、同窓会の総会で、名誉ある(!)アトラクション出演の大役を頂きました。この総会というのは、すべての年度の卒業生が一同に会する、毎回400~500名もの先輩方、先生方がご出席になる壮大な集まりです。私たちが幹事担当学年になったため、そのお役目が私にまわってきたのでした。

総会は、準備委員のみんなの綿密な準備と細部まで行き届いた心配り、そしてなにより彼女たちの素晴らしい笑顔によってつつがなく進行し、大盛会に終わりました。後日、彼女たちは当日まで徹夜続きだったと知ったのですが、そんな様子や疲れは微塵も見えませんでした。それどころか、私が何の気がかりもなく、存分に演奏に集中できるよう、みんなが一丸となって、気遣ってくれました。

出番を控えている間、「美奈ちゃん、楽しみにしてるよ!」と声をかけてくれた友人に、「ありがとう、頑張るね!(この緊張から)うう、早く開放されたい…」と、うっかり口を滑らせたら「そんなこと言わないの!皆、すっごく楽しみにしているんだから。美奈ちゃんも、ステージを楽しんでくれなくっちゃ」。すると、当日、私の“付き人”を担当してくれた親友Gちゃんが、「そうそう!本番前に好いイメージで体をいっぱいにするのは、いいことよ」

嗚呼、Gちゃん!彼女はこの日、私にぴったりと寄り添って、リハーサルの段取りから会の進行に合わせての一つ一つの流れを、すべてナビゲートしてくれたのでした。

リハーサル中、照明の打ち合わせやマイクテストやら何やらでばたばたしている周囲に、つい気が散ってしまう様子の私に、「こっちは大丈夫だから!美奈ちゃんはリハーサルに集中してて」。会が進行しはじめると「そろそろ、着替えにでましょう」「寒くない?何か羽織るもの、いる?」出番直前なのに、つい美味しそうなオードブルに手を出す私(恥ずかしい!)に、「美奈ちゃん、それ、慌てて今食べなくても、後まで取っておいてもらえるのよ」などなど。ああ、こんなお嫁さん、じゃなかった、こんなマネージャーがいてくれたら、どんなヤマ場も越えられそう!勇気百倍、鬼に金棒なのに。

総会終了後、クラスメートたちが、かつての面影のまま口々に話しかけてくれました。「美奈ちゃんさ、高校時代から、休み時間にはよく音楽室でショパンだのラフマニノフだの、弾いてくれたもんね~」「あの時から、好きなことをず~っと貫いているんだね!」「でもさ、元気そうだから、ま、いいんだけど、大分痩せたんじゃない?(*体重は当時から10キロほど減っています)ちゃんとごはん食べなよ!」一人ひとりのコメントに、懐かしくなるやら恥ずかしくなるやら、反省するやら…。

改めて、高校時代の友人たちのありがたさ、彼女たちのスキルとチームワークのすばらしさを実感し、また、卒業から四半世紀が経っているとは思えない彼女たちの変わらぬ聡明さと美貌に、ハイパーな悦びと圧倒的な幸せを感じたのでした。

すべてが終わった後、会場近くのイタリアンバルで、Gちゃんとふたりで乾杯しました。夕暮れ時の仙台。秋の風に吹かれながら、ビル街のテラスでGちゃんとグラスを傾けていたら、一瞬街の喧騒が遠ざかり、立ちのぼるシャンパンの繊細な泡の彼方に、ちらりとのどかなお花畑が見えたような気がしました。

(私信:Gちゃん、本当にありがとうね!)

2010年09月24日

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