第435回 てくてく歩きのドイツ日記 ⑦ ~ドレスデン其の一~

24日(続き)。ドレスデン中央駅よりもホテルに近い、ドレスデン北駅で下車。ホテルまで歩く途中、激安スーパー発見。しめしめ、あとでゆっくりリサーチがてら、お買い物しようっと…。

いつものように、ホテルにチェックインしてすぐまた外に歩き出す。新市街地のメイン通りに面したデリカテッセンで、チェコ語表記の生ビールを発見。それとジャガイモのスープ2ユーロ、というものを注文したら、スープには巨大なパンがついてきた(パン付のお値段だったのね)。これはお得!しかし、逆に、ビールも2ユーロのはずなのに4ユーロ、と請求された。なんでだろう?

「あら?ビールは2ユーロですよね?」お店の人はなにやら答えてくれるのだが、何と言っているのか驚くほど聞き取れない。彼女は本当にドイツ語を話しているのだろうか?…ようやくドイツ語に慣れてきたところだったはずな
のに?…2ユーロ高く請求されたビールのナゾに加えて、聞き取れないドイツ語、というダブルパンチをくらって呆然としていたら、隣の紳士が英語で「彼女ね、その加算された2ユーロはビアジョッキの分で、飲み終わった後このカウンターにジョッキを戻せばその2ユーロは返金されるのですよ、と言っているんだよ」と、教えてくれた。

そうなのだ。チェコのビールがあることから、気づくべきだった。ここは限りなくチェコに近くて、それゆえドイツ語の発音も、スラヴ語のような訛りがあるのだ。そういえば、ザクセン地方は特に訛りが強い、と、何かの本に書いてあったっけ。納得して、落ち着いて改めてビールとスープを味わう。ジャガイモのスープ、とは名ばかり?な、ベーコンや他の野菜もたっぷり入って、すべてがどろどろと渾然一体となっているこの濃厚なポタージュは、この地方の郷土料理なのだそうだ。ドイツ中部や南部ではあまり見かけない、ふわっとした相棒のパンとの相性もばっちり。ビールは軽めのピルスナーで、晴れわたった空の下できらきらと黄金色に輝いている。嗚呼、とってもいい気分…。

世界遺産としても名高いエルベ川流域を、のんびり歩く(まさか、このちょうど一ヵ月後に、ここが世界遺産から抹消されるなんて事態になるとは、この時知る由もなかった)。第二次世界大戦で徹底的に破壊されたこの古都を象徴する建物の一つ、ゼンパーオペラの美しさには、思わず息をのんだ。世界で最も美しいオペラ座、といわれているこの建物は、エルベ川のふもと、ツヴィンガー宮殿の向かい側に建ち、栄華と波乱のすべてを達観してきたかのような、落ち着いた佇まいを見せていた。今夜上演される、ヴェルディの“アイーダ”のチケットが取れなかったことが、改めて悔やまれる。内部はツアーでのみ見学できるようになっているので、時間を待って参加した。

「ステージの向こうには、こちらから見えている3倍もの面積がとられていて、ありとあらゆる仕掛けに対応できるようになっています。それから、ステージ上部の数字表記による時計…。面白いでしょう?かつては手動で、5分単位で動かしていたんですよ。開演時間最後の二桁“00”は、歌手や演奏者の準備ができたのを見計らって動かしたので、やや不正確にはなっていたようですが」

「確かに、このオペラ座の(ホール)内部は美しいけど、このホワイエはさらに素晴らしいでしょう?中は、お客さまに舞台や音楽に集中して頂くために、そこまで豪華な仕様にはなっていないのですが…とはいっても、充分ゴージャスですよね…こちらでは、休憩時間を存分に楽しんでいただくために、壁から天井画に至るまですべて吟味され、宮殿のように豪華につくられているのです。ひときわ存在感を放っている、大理石のこの柱…実は、“人造”なんですのよ!このあたりはイタリアと違って大理石が採れないのですが、設計者は是非、大理石を、ときかない。だけど、他国から運んでくるにはあまりにもコストがかかる…。そこで、造りだすことを考えたのです。とはいえ、それも大変な仕事でした。一本の柱を造るのに800時間を要した、とも言われているんですよ!…私はこの話を知ったとき、ああ、当時この国が社会主義でよかったわ、資本主義社会だったらとてもできなかったことだろう、って、心から思ったものです」

案内係のマダムが、ユーモアも交えながら表情豊かに説明してくれて、45分のガイドツアーもあっという間だった。その後、政府の反対を押し切り、市民の手で瓦礫一つ一つを集めるところから始めて、2005年にその再建を果たしたドイツ最大のルター派プロテスタン教会、トフラウエン(聖母)教会や、ツヴィンガー宮殿のアルテ・マイスター(絵画館)を見る。特定の歴史地区はよく整備され、活気にも満ちているが、少しはずれると瓦礫がころがっているようなだだっ広いスペースに工事用車両が細々と動いていて、本当の復興を遂げるまでにはまだまだ時間がかかりそうだ。とはいえ、町は観光客に溢れていて、今回の旅で訪れたどの場所よりも観光客や観光バスが多いのではあるが。

観光地化が進んでいるからか、アイスクリームの盛りが小さい(それとこれとは、関係ない?)。ひどいとき(?)には「大盛り・小盛り」で、料金設定が違っていたりする。しかも、“小盛り”でも、他の町よりすでにお高いのだ。みんな“大盛り”でいいのに…!なんだか、訳もなく残念な気持ちになる。

残念といえば、エルベ川のまわりはあんなに歴史的な雰囲気に満ちているのに、その一方旧市街地の南部は近代的な商業施設が乱立していて、いささかとらえどころのない印象を受けた。また、観光客がブリュールのテラスなどの風光明媚な美しい場所に陣取って、ゆったりとくつろいでいるのに対して、地元の人々は、よく言えば“モダン”、悪く言えば“即席”に設えられたショッピングモールの一角にあるファスト・フードで、ささっと食事を済ませている…。復興、とは、建物などハード面のことだけではない。人々の生活や、社会が整ってこそではないか。ドレスデンは旧東の中では成功している方だと聞くが、それでも複雑な思いがした。

ぐるぐる歩いていたら、アルト・マルクトに出た。たくさんの屋台が出ていて、まるでお祭りのようだ。中には、“ハンガリーからやってきた…ランゴシュ屋”なんていう看板を掲げた屋台まである。ランゴシュはハンガリー名物の平べったい揚げパンで、上にチーズやサワークリームをトッピングしてアツアツを頂くもの。私の大好物だ。ランゴシュにドレスデンで出会えるなんて、と、つい手が伸びかかったのだが、ふと、冷静になる。ここはドイツ。せっかくだから、ドイツのものを食べよう。…そういえば、チューリンゲンソーセージを食べないまま、ザクセン地方に来てしまった。そうだ、まだソーセージ自体を食べていないではないか!その時、素敵な屋台が目に飛び込んできた。“チューリンゲンソーセージ各種”とある。メニューを見ると、ワイマールでもお目にかかれなかった鹿肉のソーセージがあるではないか!

「鹿肉の焼きソーセージと、ゼクト(ドイツのスパークリングワイン)を下さい」と言ったら、カウンターのお姉さんが「ゼクト?あとこれだけしかないんだけど」と、面倒くさそうにぶんぶんボトルを振り回した。しかも、この暑い中、常温だ。慌てて「じゃあ、白ワインお願いします」と言うと、ワイングラスにじゃんじゃん注いでくれる。注ぎ終わるころに、ちょうどそのボトルのワインがなくなってきたので、お姉さんは「全部入れちゃえ!」とばかりに、こぼれんばかりの大盛りにしてくれた。すごいぞ、ワインの“もっきり”だぁ!…かくして、左手にはパンの両側からはみ出した30センチはあろうかというソーセージのはさまったホットドック、右手には今にもこぼれそうなもっきり白ワインをもって、最寄りのテーブルに着いた私。きっとだらしないほどにんまり、頬が緩んでいたことだろう。鹿肉のソーセージは、ダイナミックなビジュアルに反して繊細な味わいで、恐らく内臓も使っていると思われるけどまったく癖もなく、皮も香ばしくプリップリ。ぱくぱく食べてしまった。こうして、お昼と同じくドリンク込み計4ユーロのローカルディナーを満喫し、再びゆっくりエルベ川を渡り、途中、アイスクリームブレイクをしながら、歩いてホテルに戻った。

古都ドレスデン二日目の明日は、エルベ川をゆったりクルーズして、あの名店に潜入してみよう。

                                            (てくてく歩きのドイツ日記 ⑧ に続く)

2009年07月10日

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