第407回 ラジオの時間

師走。師が走る…?さすがの師(僧侶、という意味もあるそうですが)も走りまわるほどに忙しい月、というのが由来ということになっているようですが、個人的にはどうもしっくりきません。忙しい、とは“心を亡くす”、という意味だと言うのに、僧侶たる方々が走るがごとくに忙しく…なんて、どうなのでしょう?

そこで私は勝手に、“師が走る”のではなく“師に走る”だと解釈しています。お世話になった方に、一年間のお礼を申し上げるご挨拶に走る、という方が、かえって自然であるように思うのです。日本にはお歳暮、という習慣があります。今は当たり前のように宅配されるお歳暮ですが、もちろんかつては発送などしないで、人々は歩いて(走って?)直接、先方に届けられていたはずですし…。

大掃除、年賀状…確かにやるべきことはたくさんあるし、まだ何にも手をつけていない私が言っても何の説得力もないのですが、忙しいときだからこそ、ゆったりとした気持ちで過ごしたいものです。

そこで、私の今年のテーマは“優雅な大掃除作戦”。これは、ただ、“心を忘れて(亡くして)”のべつ幕なしに家中を拭いたり掃いたりするのではなく、そこにちょっとでもゆとり感を入れる、というものです。例えば、「これが終わったら、とっておきのショコラでコーヒータイムにしよう」とか、「窓がキレイになったらお部屋にラベンダーのアロマをたこう…」とか。その他、ベランダを掃いたら何か植物を買いに行こうかな、とか、お風呂の掃除が終わった日は、電気の代わりにキャンドルで入浴しようかしら、などなど、考え出したら楽しくなってとまりません。考えただけで、大掃除しないまま12月が終わってしまいそうな気もしてきましたが(確かに、そんなにのんびりしていたら、掃除を終える前に年があけてしまう…?)。

そんな時に力を発揮するのが、ラジオです。テレビは目線を向けなければならないし、音楽を流すのはいいのですが、音楽だと私はどうしてもじっと聴き入ってしまいがちになるので、手元がおろそかになる傾向があるのです。そこへいくとラジオは聞き流せるし変化もあるし、いろんな想像に遊びながら聞くことが出来るので、“労働感”が緩和されて、仕事がはかどるような気がしています。

でも、そんなラジオの番組に自分が出演することになろうとは、思っていませんでした。確かに、ただ出演するだけなら過去にも何度かあったのですが、演奏するでもなく、聞き手がいるでもなく、たった一人で正味40分ほどの番組を受け持つなんて、その道のプロの仕事でしかありえない…。まったくの想定外だったのです。

しかも、インターネットラジオなので、クリックすれば世界中のどこに住んでいる方も、いつでも何度でも(!)聞くことができます。初めてのパーソナリティー(D.J.)体験なのに、台本もリハーサルもなく、いきなり世界へ向けて“録り”です!…情けないことに、緊張で始めのコールのところから声がうわずってしまいました。

でも、番組にリスナーの皆様から思いがけずたくさんのお手紙をお寄せ頂いて、それを一つ一つご紹介していくうちに、なんだか直接その方とお話しているような気持ちになってきて、不思議にちからが抜けてきました。むむ?これは意外に天職だったりして?いえいえ、とんでもない!めっそうもない!!それはひとえに、担当してくださったチャンネルAQの山本さんのお力に他なりません。

あとは、もともと人とのコミュニケーションが嫌いではないので(その昔、「でも、美奈子ちゃんが一番好きなのは“呑みニュケーション”でしょ?」なんて、つっ込まれたことがありましたが)、つい、その場に相手の方がいらっしゃらないのを忘れて、話に夢中になってしまっただけのことです。

それにしても、自分の声を聞くのって、どうも気恥ずかしいものですよね。鏡を見ることにはそこまで違和感をおぼえないのに、どうしてなのでしょう?思春期の頃は、当時のアイドルのように、高くて細い、女の子らしい“ミルキー”な声に憧れましたが、今はただ、「容姿は年上に見られ続けてきたのだから、せめて声だけでも“若い”印象に聞こえますように…」と望むばかりです。はぁ~っ(←ため息)。

おっといけない、ここできちんと気を取り直して、と。…番組の中で、バックに、私のセカンドアルバム『Le soire(ル・ソワール)』の中からだけでなく、前回のアルバム『piano pieces from Finland』の中からも、何曲か使ってくださいました。せめてこの番組を聴きながら、皆さんが少しでも気持ちよくお掃除してくださったり、気忙しい師走のひと時に、ホッとひと息ついていただければ、こんなに嬉しいことはありません。どうぞよろしくお願いいたします!


(*この日の収録は、12月13日日公開だそうです。
http://www.voiceblog.jp/aquaan/

2008年12月12日

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