第389回 馬と鹿に、申し訳ない

次回のアルバムジャケットの撮影が近づいてきました。

前回のジャケットは、結果的に「フィンランド旅行中に撮られたのですか?」と聞いてくださる方もたくさんいらして、写真は(モデルはさておき)大好評でした。もちろん、写真はフィンランドで撮影したのではなく(撮影クルーのフィンランドロケ費用などを捻出してくれる、理解と財力のあるスポンサーがつくような大物ではないので)、近所の大好きなカフェに撮影協力をお願いし、これまた大好きなカメラマンさんに撮っていただいて、さらに頼りになる友人にメイクまでお願いして作ったものでした。ジャケットデザインは、エンジニアさんの奥さま。気の置けない仲間同志ならではの、親密で温かなジャケット作りができました。皆さんには感謝あるのみです。

今回も、ディレクター、エンジニア、ピアノの調律の方も、同じメンバーです。前回もディレクターの町田さんには、選曲から曲順、コンセプトの組み立て方や編集の段階で、本当に的確な助言を頂きました。彼の手助けなくしてはアルバムは完成しなかったのでは…と、思っています。

さて、今回の撮影場所も、やはり近所の大好きなカフェ。まるで自分のお部屋のような、簡素でいながらスタイル感のある、心からリラックスできる雰囲気がなんともイメージにぴったりなお店なのです。聞けば、内装のほとんどを、オーナーのお二人がご自身で手がけられたとか(まだとっても若くてチャーミングなお嬢さん方なのに!)。オーナーの一人、Mさんは、前回の撮影時にご協力いただいたカフェのスタッフでもあった方で、私の申し出を笑顔で快諾してくださいました。カメラはやはり、前回と同じTさん。女性ならではの柔らかな感性、ビーズアクセサリーデザイナーとしての抜群のセンスや、ピントだけに縛られることなく、被写体を自由に捉えて思いがけない“絵”“表情”をその写真に切り取ってしまう才能の持ち主です。

その他にも、日本を代表するようなすごいお仕事を海外でももりもり展開していらっしゃる、気鋭の空間デザイナーKさんも、アドバイザーとして力になってくださっています。なんて幸せものなのでしょう。

皆さんに共通しているのは、とにかく私の話をよく、聞いてくださること。「美奈さんはそのへん、どうしたいの?」「それは、例えばこういうコンセプトってこと?」…そんな会話を重ねていくうちに、漠然としていたものが次第にクリアに見えてくるのです。昨日は、カフェのオーナーMさんが、なんと撮影用の衣装として、イメージに近いものを見繕って、私物のなかから二点ほどを貸してくださいました。実は、かつてアパレルの某人気ブランドのお店のスタッフだったこともあるMさん。そのお見立てに、思わず心躍るような気持ちになりました。

こんなステキな周りの方々に導かれて作る今回のアルバム。何としても、前回以上に愛着をもてるような出来栄えにしたいものです!…と、思いつつ、貸していただいた衣装を手に、駅までの道のりを歩いていると、後ろから電車がやってくる気配が。「あ、この時間帯って、一本のがすと次がなかなか来ないのよね」…つい、ハイヒールを履いていることも、ワインを何杯か飲んでいたことも忘れて、駆け出しました。なかなか快調快調。この分なら間に合いそう…、と、改札口をめざしてさらにスパートをかけた、その時です。

急にアスファルトの小さな凹みに足をとられ、景色がぐるりとまわったかと思うと、もんどりうって倒れてしまったのです。顔を地面に打ち付けて、すぐ目の前にアスファルトが…。全身地面にうつ伏せのポーズになっていました。そして、バックははるか前方に放りだされているではありませんか。

しかも、運悪くスカートだったのです。…これでデニムでもはいていたら、ここまで見事に擦りむかなかったのに…。両膝ともに半径4〜5センチほどのクレーターができ、出血しています。肘も。おでこには早くもタンコブが盛り上がり始め、鼻にも「え?折れたの?」という感じの、いやな痛みがあります。

でも、顔よりも何よりも気になったのは、右手首と左手の親指、人差し指の打撲でした。「来週前半の撮影…」「再来月初旬のレコーディング…」その二つのフレーズが頭をぐるぐる回り始め、なんて軽率なことをしてしまったのかしらと後悔するも、時すでに遅し、です。

嗚呼、本当に、なんて馬鹿なの…というより、馬も鹿も、まずこんな馬鹿なことしないわよ。ああ、周りの皆さんに申し訳ない。自分が情けない。ついでに馬にも鹿にも申し訳ない。でも、あえて「馬鹿!」と叫びたい。大体、自分が馬鹿なのに「私ってお馬鹿さん…」なんて、“お”と“さん”と二重に丁寧に言うなんて、おこがましいことです。そう、他の人はどうあれ、私は「お馬鹿さん」なんて決して言うまい。いや、言えまい。だって、それは私と違って、本当は馬鹿じゃない人が、謙遜していう言葉なのだから。…かくして、ほんの数分前まであんなに高揚していた気持ちは、一気に地の底まで凹んだのでした。

翌朝は、加えて肋骨付近にも痛みが…。反省です。

2008年07月18日

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