第387回 ナイトキャップな一枚を

梅雨のど真ん中。同居人(?)のウィーン生まれのピアノと同じように、55パーセント以上の湿度に不快を感じてしまう私には、少々辛い季節です。まだそれほど暑くはないので、寝苦しい、ということはないのが救いではありますが…。

そういえばここ数年、睡眠が浅くて疲れがとれない、とか、不眠気味になっている人が増えていると聞きます。

脳が働いている状態からリラックスするまで、ある程度時間がかかるので、たとえば就寝直前までパソコンをしていたりするのはよくないのだそうです。う~む、そうとは知っていても、ついつい時間を忘れて(?)調べものをしてしまいがちな私は、耳が痛い…。

でも、お布団の中で本を読んでいると眠くなる、というのはどういうことなのでしょう?同じように脳を使っているはずなのに…。人間の体って、よくわからないものです。(よくわかっていないのは私くらいかな?)

せっかく視力が回復したので、この頃は本の代わりに写真集などを眺めることにしています。かつて裸眼で2,0あった視力を一年で0,3にまで低下させてしまったのは、高校受験のときにお布団に入ってなお、参考書や教科書をながめていたのが原因だと信じているので、同じことを繰り返してしまわないように、と思ってしまって…。(あ、でもそろそろ老眼が始まるから、あまり関係ないのかな?)

写真集なら小説ほどは眼にも負担がかからないでしょうし、何よりも美しい写真を見ているとなんとなくリラックスできます。最近のお気に入りは『Perfume Bottles』というイギリスのペーパーバックの写真集です。ペーパーバックとは言っても写真用の厚紙で448ページあるので、片手で持つとずっしりとした重さがあります。著者のユディット・ミラーさん(Ms.Judith Miller)は、イギリスのアンティーク収集家。20世紀初頭のバカラ製、香水びんそのものはもちろん、それが入れられる木箱にすら美しい装飾が施されている19世紀のもの、手書きで絵が描かれているエナメル製のものや、瓶が魚の形の銀細工になっているもの…そのどれもが世にも高価な”ひとしずく”を入れるものにふさわしく、私のような香水好きじゃなくてもため息がでる美しさです。

もうその香りを嗅ぐことができないものがほとんどですが、こんな瓶に入っていた香水はどんな香りだったのかしら、と、想像するだけでも楽しいし、デザインやマテリアル、色合いの組み合わせといい、高い芸術性が感じられて、何度見ても飽きることがありません。

眠りにつく前のひと時を、心豊かにリラックスして過ごせる、こんな一冊の本のようなアルバム(CD)があったら…?誰かにとっての、そんなお気に入りの一枚にかかわれたら、それこそ演奏家冥利につきるというものです。勿論、そんな野望のような夢を叶える自信があるはずもありませんが、いつかそんなアルバムを作ってみたいものだな、と、漠然と考えていたのです。でも、考えているだけでは始まらない!…自信もないのに行動してしまうのは悪い癖なのですが、またも懲りずにエイヤっと奮起して、二枚目のソロアルバムを作ることにしました。テーマは“le soir(ル・ソワール)”。フランス語で夕方、晩、です。

演奏する曲目は夜、夕暮れ、をイメージして12曲を選びました。すべてフランスの作品です。前回のフィンランドのピアノ作品集のアルバムでは、24節気をなぞらえて24曲を配置したのですが、今回は12ヶ月それぞれの夜の情景を12曲で綴る、というコンセプトです。

…と、ここまではいいのですが、いざタイトルを定めるとなるとなかなか厄介なのです。調べてみると、かつて杉本彩さんという方が同じタイトルでアルバム(歌の?)を出していらっしゃったみたいですし、第一、フランス語には夜、とか日没から就寝までの時間、という意味では“la soiree(ラ・ソワレ)”という言葉があって、こちらは女性名詞。時間帯の他に、夜会、とか夕食後のパーティー、といった意味もあって、男性名詞の前者le soirとはニュアンスが違います。はてさて、どちらが私のイメージに近いのでしょう?フランス語の知識が乏しいので、なんとも心細い限りです。それにソワレ(夜会)…といえば、かの中島みゆきさんのライブシリーズのタイトルではありませんか。杉本彩さんといい、ジャンルが違うとはいえ、タイトルが同一というのは如何なものでしょう。第一、合法的なのでしょうか?

うむむ…先日やっと演奏曲目は決まったものの、まだまだ前途多難なアルバム製作であります。どうか無事に“生まれ”ますように!

2008年07月04日

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