第260回 左手の親指は大切なのに

他の人からは、あまり体を大切にしていないように見えているかもしれません。しばしば暴飲暴食(?)するし、毎日夜更かしはするし、かといって朝は早く起きるし(つまり、しっかり睡眠時間を取っていない)、このトシなのに健康診断はまったく受けていないし、どこか悪くなってもよほどのことがない限り病院には行かない、どころか薬も飲まないのですから。

でも、自分としてはこれでもちゃ〜んと健康管理しているつもりなのです。これといって心がけている健康法があるわけでもないのだけど。強いて言うなら「体の健康は心の健康から!」。心に悪いことは、極力避ける、というのがモットーです。つまり、美味しいと思うものを食べ、楽しいと思うことをするのであります。夜更かしが楽しいのであれば、それはきっと心を癒していることになるのだろうから、気のすむまでやっちゃえ!…食べたい、と感じるということは、潜在的に体の状態がその食物のもつ栄養素、滋養というものを欲している、ということなのだから、ケミカルな薬やサプリメントをとるよりも食べたいものをお食べ!…というわけです。

だって、考えてもみてください。ただでさえ、生活の中で私たちは多くのことを“我慢”して生きているのです。言いたいことをすべて言い尽くすことも出来ず、見つめていたいもの(例えば、レストランで隣の人が食べている美味しそうなお皿やら、天使のように可愛い子供やら…)を気のすむまで見尽くすことも出来ず、気が乗らない仕事もこなさなければならず…。せめて、一日の仕事(家事も含めて)が完全に終わった後、好きな過ごし方でリラックスしたり、美味しいものからエネルギーをもらうことくらい、思う存分してもバチは当たらないでしょう?

美味しいもの、と言っても、何も贅沢なものを頂かなくてもいいのです。要は心が満たされれば。…例えば昨日は、スーパーの魚売り場で、真アジに釘付けになりました。旬は過ぎたとはいえ、新鮮で美しく、目も澄んでいます。しかも、一尾100円。帰る道すがら、昔のアニメの悪者のように「ふっふっふ。どうやって料理してやろうか…」と、ず〜っと考えた末、三枚に下ろしてオリーブオイルでサッとムニエルにすることにしました。それなら、前日に開けたロワール地方のロゼとの相性もいいはず。真ん中の一枚はじっくり骨まで食べられるように焼いてみることにしました(居酒屋さんでいう“骨せんべい”。これを出してもらうたび、一度自分で作ってみるぞ、と思い続けていたのです)。

と、ここまでは良かった。問題は今日の昼餉の支度です。カボチャのポタージュを仕込もうと、玉ねぎを快調に刻んでいたはずが、一瞬のスキにざっくり左手の親指を切ってしまったのです。それも、昨日真アジを三枚に下ろすにあたって気合を入れて砥いだばかりの包丁で!この場所の出血はなかなか止まらないのです…。11月のコンサートシーズンを目前に、何たる迂闊!

実はピアニストにとって親指は、とても大切な指なのです。もしも安定して弾けないところがあったら、それはほとんど、腕と親指に問題がある、とみて間違いないほど。しかも、左手です(よい響きやフレーズ感で弾けないとしたら、左手に問題あり、の可能性が高いのです)。…やっと血が止まったかな、と思ってちょっと弾いてみるものの、やはり鍵盤に当たるとその衝撃でまた出血してしまい、今日の練習はあえなく断念。あんなにご機嫌だった昨日が、随分遠い昔のような気がします。昨日どっさり送られてきた譜面の譜読みもあったのに…と、落ち込むことしばし。ん?なんだか喉が痛くなってきた…。

ほらね、やっぱり「体の健康は心の健康から!」なのであります。気をつけねば…。

2005年10月27日

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